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精油はカレーに似ている——香りと芳香分子を学ぶ楽しさ
ラベンダーやゼラニウムなどの精油を知ることと、芳香分子を学ぶことは何が違うのでしょう。カレーにたとえると、難しそうな精油の化学が少し身近に見えてきます。
こんにちは、由山です。
アロマの授業で精油について説明するとき、私は「精油はカレーのようなもの」とたとえることがあります。
唐突なたとえに「え?」と戸惑う生徒さんもいらっしゃるのですが、これにはちゃんと理由があるんです。
カレーには、唐辛子やクミンなどのスパイス、玉ねぎをはじめとする野菜、肉や魚、油など、いろいろな材料が使われています。それらが組み合わさり、一皿のカレーになります。
精油も、一つの成分だけでできているわけではありません。一滴の中に、香りのもとになるさまざまな芳香成分、芳香分子が含まれています。それらが組み合わさることで、その精油らしい香りや特徴が生まれます。
つまり、ラベンダーやゼラニウム、ローズマリーなど、いろいろな精油を知ることは、インドカレーやタイカレー、スープカレーなど、さまざまな種類のカレーを知ることに似ている、というお話です。
芳香分子を学ぶことは、カレーの材料を知ること
もう少しだけ、カレーの話でたとえます。
カレーの辛さに関わる唐辛子の成分は、カプサイシンをはじめとするカプサイシノイドです。
「赤唐辛子より青唐辛子の方が辛い」と聞くことがありますが、調べてみると、色だけでは決められません。
韓国唐辛子を調べた例では、未熟な緑色の唐辛子より、熟した赤色の唐辛子の方が、カプサイシノイドを多く含んでいました。一方で、その増え方や減り方は品種や熟し方によって異なることも分かっています。
見た目だけで「こちらの方が辛い」と決めることはできない。中に含まれる成分を知る面白さは、こんなところにもあります。唐辛子のカプサイシノイド量を調べた研究
ただ材料の名前を覚えるだけでなく、「この素材にはどんな特徴があるのか」が分かってくると、馴染みのあるものの意外な側面に気づくきっかけになることもあります。
そして実は、この考え方は、アロマの世界にも当てはめることができるんです。
芳香分子を知ると、香りと働きが見えてくる
例えば、リナロールという芳香分子があります。
不安に関係する反応を和らげる可能性が研究されている成分で、ラベンダーやゼラニウム、クラリセージなど、多くの種類の精油に含まれています。
鹿児島大学などの研究チームは、リナロールの香りを嗅いだマウスの行動を調べました。
マウスは、身を隠す場所のない明るく開けた空間を、本能的に避ける性質があります。そのため研究では、明るい場所や壁のない通路へどのくらい入るかを、不安の強さを見る指標の一つにしています。
リナロールの香りを嗅いだマウスは、明るい場所や開けた通路へ入る回数と、そこで過ごす時間が増えました。
運動能力や移動距離は低下していなかったため、単に動きが鈍くなったのではなく、リナロールの香りによって、不安に関連する行動が和らいだと考えられています。鹿児島大学などによる研究
この研究は、精油全体ではなく、リナロールという一つの芳香分子に注目することで見えてきた働きです。
では、リナロールを含むラベンダー、ゼラニウム、クラリセージは、どれも同じ香り、同じ働きなのでしょうか。
実際に嗅いでみると、それぞれの個性豊かな香りが楽しめますし、作用の面でも得意なことは異なります。
リナロール以外に含まれている芳香分子や、それぞれの割合が違うからです。
成分を知ると、その精油の香りや働きを理解する手がかりが増えます。
加えて、同じ成分を含む精油でも、ほかの成分との組み合わせや割合が違えば、精油全体としての香りや働き、使うときの注意も変わることがあります。
出来上がったカレーの種類を味わうように、ラベンダーやゼラニウムといった一つひとつの精油に詳しくなることも大切です。
同時に、その香りがどのような芳香分子からできているのか、材料の側から見てみることも、アロマの理解を深めてくれます。
精油全体を見るマクロな視点と、芳香分子を見るミクロな視点。その両方を行き来できるようになると、香りの世界がもっと立体的に見えてきます。
詳しくなくても楽しめる。詳しくなると、もっと遊べる
もちろん、詳しくなくても香りは楽しめます。
カレーも、スパイスの名前や特徴を知らなくても、おいしく食べられます。
インドカレーが好き。タイカレーが好き。辛くないカレーが好き。具がたくさん入ったカレーが好き。
同じカレーと呼ばれていても、それぞれに違ったおいしさがあります。どれが正解ということではなく、自分の好みで楽しめばよいと思います。
精油も同じです。
最初は「この香りが好き」「今日はこの香りを使いたい」というところから始めて構いません。
そこから、いろいろな精油を知り、芳香分子の特徴まで分かるようになると、それまで何となく感じていた香りの違いが少しずつ見えるようになります。目的や好みに合わせて精油を選び、組み合わせることも、もっと楽しくなっていきます。
この材料を加えると、香りがどう変わるのか。自分には、どんな組み合わせが心地よいのか。それぞれの特徴を生かしながら、自分なりに香りを組み立てていく。
オリジナルレシピのカレーを作れるようになるみたいに、自分の悩みや気分に合わせて、その時々で自分のための香りを作れるようになるとしたら、ちょっとわくわくしませんか?
芳香分子というと、化学の話だと身構えてしまう方もいらっしゃいますが、私はこんなふうに考えています。
みなさんにもぜひ、香りの世界のミクロな視点を、面白がってみてくださいね。